中学生の頃、学校で「読書をする時間」という曜日があり、本屋で本を探していました。
そのときに見つけたのが『妖怪アパートの幽雅な日常』でした。
文庫版で比較的文章量が少なそうだったこともあり、「これなら読めそう」と思って手に取ったのを覚えています。
タイトルから、妖怪が出てくるちょっと怖い話やファンタジー作品を想像していました。
ところが、実際に読んでみると、思っていたよりもずっと「学生の日常生活」が中心。
もちろん妖怪や幽霊は登場するのですが、怖さよりも、登場人物たちと過ごす日々や主人公の成長が印象に残る作品でした。
今回は、文庫版全10巻を中学生の頃に読んだ私が、『妖怪アパートの幽雅な日常』について改めて振り返ってみます。
※この記事には軽いネタバレがあります。物語の核心に関わる部分にはできるだけ触れないようにしています。
『妖怪アパートの幽雅な日常』ってどんな作品?
『妖怪アパートの幽雅な日常』は、主人公・稲葉夕士が「妖怪アパート」と呼ばれる不思議なアパートで生活することになるところから始まります。
タイトル通り、妖怪や幽霊など、人間ではない存在も暮らしているアパートです。
知らずに入居したら、かなり驚くどころか、腰を抜かしてしまいそうな場所。
それなのに、そこで描かれる生活は意外なほど日常的です。
食事をしたり、学校に行ったり、人と話したり。
その中に、ときどき悲しい出来事や事件が起こります。
そのため、私の中では「怖い妖怪の話」というより、不思議な住人たちと一緒に生活しながら、主人公が少しずつ成長していく物語という印象が強く残っています。
思っていたより「怖くない」作品だった
読む前は、タイトルに「妖怪」と入っているので、もっと怖い話なのだと思っていました。
ですが、実際に読んでみると、怖い話はそれほど多くありません。
むしろ、よくある学生の日常生活の中に、少しだけ不思議なものが混ざっているような感覚でした。
日常の中で友達と話したり、学校生活を送ったり。
そこに悲しい話や事件が、ときどき差し込まれてくる。
このバランスが個人的には好きでした。
「妖怪が出てくるから怖い」というより、日常生活の延長線上に、少しだけ現実では起こらなさそうな出来事があるという感じです。
そのため、ファンタジーが好きだけれど、あまり怖い作品は得意ではないという人でも読みやすい作品だと思います。
主人公が少しずつ変わっていくところが好き
この作品で特に好きだったのが、主人公・稲葉夕士の成長です。
最初の夕士は、負けず嫌いで、周りに迷惑をかけることを嫌う人という印象がありました。
「自分で何とかしなければ」と思ってしまうタイプです。
でも物語が進むにつれて、少しずつ変わっていきます。
もちろん、最初から別人のようになるわけではありません。
それまで持っていた性格を残しながら、いい意味で柔らかさが加わっていく。
そして、自分一人で抱え込むのではなく、いろいろなものを見たうえで、自分で選べるようになっていく。
私はこの部分がとても好きでした。
辛い境遇だっただろう主人公が、さまざまな人と関わりながら、人として強くなっていく。
「強くなる」というのも、単純に何でも一人でできるようになるという意味ではないのだと思います。
誰かの考えを知ったり、自分とは違う価値観に触れたりしながら、自分で考えて選べるようになる。
そんな成長が描かれているように感じました。
龍さんが好き
登場人物の中で、私が特に好きなのは龍さんです。
私の中では、「たまに現れるすごい人」という印象があります。
必要なときに、すっと手助けをしてくれたり、アドバイスをくれたりする。
何でも前に出て解決してくれるというより、必要なときにそっと手を差し伸べてくれる感じが好きでした。
そして、龍さんは同じ作者さんの別の作品にも登場します。
そのため、私にとっては作品と作品をつないでくれるような存在でもあります。
「この人、ここにも出てくるんだ」と気づいたときには、ちょっと嬉しくなります。
るり子さんの料理がとにかく羨ましい
妖怪アパートでの生活を語るなら、やっぱり食事も外せません。
特に、るり子さんの作る料理。
読んでいると、どの場面でも「これ食べてみたい!」と思うものばかりでした。
主人公がとても羨ましい…!
妖怪や幽霊が暮らしている不思議なアパートなのに、そこに「おいしい食事」があることで、生活感が一気に増しているように感じます。
怖い場所なのか、安心できる場所なのか分からない。
でも、食卓を囲んでおいしいものを食べていると、なんだかほっとする。
そんな不思議な魅力がありました。
「人によって違って当たり前」と思えるようになった
この作品を中学生の頃に読んだ私にとって、特に印象に残っているのが「人によって考え方が違う」ということです。
当時はちょうど思春期だったこともあり、自分の心をどう整理したらいいのか分からないこともありました。
そんな時期にこの作品を読んで、いろいろな考え方に触れたことで、
「人によって違うのは当たり前なんだ」
と思えるようになりました。
同じ出来事を経験しても、人によって感じ方や考え方は違う。
同じ意見になる必要もない。
そして、どうしても苦手な人がいるなら、無理に好きになる必要もない。
「苦手な人は苦手でいいんだ」と納得できたのも、この作品から受け取ったものの一つでした。
今振り返ってみても、この部分はかなり大きかったと思います。
中学生の頃と今では、感じ方が少し違う
中学生の頃に読んだ作品を、今になって思い返してみると、当時とは少し違った見方もできるようになりました。
作品の中には、今の世の中から見ると、世代的に少し古く感じる部分もあります。
「今だったら、これは難しいだろうな」と思うようなものもありました。
一方で、当時はそこまで深く考えていなかった主人公の状況について、
「最初の頃の夕士って、思っていた以上に切羽詰まっていたんだな」
と感じるようにもなりました。
また、作品に登場する大人たちについても、今の自分から見ると違った感想があります。
「こんな大人、現実にはあまりいないよな」と思うこともあります。
それでも、やっぱりかっこいい。
中学生の頃には単純に「すごい大人」と思っていた人物を、大人になった今は「こんなふうに人を支えられる人ってかっこいいな」と感じる。
同じ作品でも、自分の年齢や経験が変わると見え方が変わるのだと思いました。
『妖怪アパートの幽雅な日常』は、自分の世界を広げてくれる作品
私がこの作品を一言で表すなら、
「主人公を通して、自分の世界を広げていく作品」
です。
妖怪アパートという特殊な場所で生活することで、主人公はそれまで知らなかった人や考え方に出会っていきます。
そして、それは読んでいる側にも同じことが起こるように感じます。
「こんな考え方もあるんだ」と思ったり、
「自分とは違うけれど、そういう考え方も分かる」と思ったり。
すべてに納得する必要はありません。
むしろ、納得できないものや苦手なものがあってもいい。
そのうえで「自分はどうするのか」を考える。
そんなことを、この作品から教えてもらったような気がします。
こんな人におすすめ
『妖怪アパートの幽雅な日常』は、こんな人におすすめしたい作品です。
焦っている人
何かに焦っていて、自分でもどうしたらいいのか分からなくなっている人。
主人公の成長を追いながら読むことで、少し立ち止まって考えるきっかけになると思います。
自分の心を整理したい人
自分の気持ちや、人との付き合い方について考えたい人にもおすすめです。
「こう思ってもいいんだ」と思えるような考え方に出会えるかもしれません。
懐かしさを感じたい人
学生生活を描いた作品なので、学生だった頃を思い出したい人にも向いていると思います。
特に昔この作品を読んでいた人なら、今読み返すと当時とは違う感想が出てくるのではないでしょうか。
逆に、こんな人には合わないかも
「妖怪」というタイトルから、怖いホラー作品を期待している人には、少しイメージと違うかもしれません。
また、自分が想像していた作品と違うことが嫌な人にも、あまり向かないと思います。
妖怪が登場する作品ではありますが、中心にあるのは妖怪との怖い戦いや怪異ではなく、人との交流や主人公の成長、日常生活です。
「妖怪ものだから、ずっと怖い話なんだろう」と思って読むと、かなり印象が違うと思います。
まとめ:今読んでも、きっと違うものが見える
中学生の頃、学校の読書のために本屋で偶然手に取った『妖怪アパートの幽雅な日常』。
最初は「妖怪が出てくるちょっと怖いファンタジーかな」と思っていました。
でも実際には、怖さよりも日常生活や人との交流が印象に残る作品でした。
主人公がさまざまな人と出会い、考え方を知り、少しずつ成長していく。
その姿を読んでいるうちに、私自身も「人によって考え方が違うのは当たり前」「苦手な人がいてもいい」と思えるようになりました。
中学生の頃に読んだからこそ響いた部分もあったと思います。
そして、今振り返ってみると、当時とは違った部分にも気づくことができました。
図書室や図書館などで見かけることがあれば、また読みたいと思える作品です。
もし今、何かに焦っていたり、自分の気持ちを整理したかったりするなら、一度この「妖怪アパート」を訪れてみるのもいいかもしれません。
妖怪たちとの不思議な日常を読みながら、自分の世界も少し広がっていく。
私にとって『妖怪アパートの幽雅な日常』は、そんな作品です。

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